牧水と噴気を出す焼岳
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 焼岳は、いかにも火山らしいゴツゴツした山であり、今でも噴気を出している活火山です。粘性の大きいマグマが地下から吹き上がった結果、溶岩円頂丘(溶岩ドーム)という地形ができました。そして焼岳は、岐阜県側に豊富な温泉をもたらしています。
 大正10年(1921)に、歌人の若山牧水が焼岳に登っています。牧水は、案内人と上高地側から頂上に登り、飛騨側の中尾に降りました。その紀行文があります。「噴火の煙の陰を立去ると我等はひた下りに二三里に亘る原始林の中の険しい路を馳せ下った。−−−まったく焼岳の亀裂の谷では二人とも命の危険を感じたのであった。這いかけた岩の腹からすべり落ちるか、若しくは崖の上から落ちて来る石に打たれるか、どちらかの運命が我等のいづれにか、或いは双方ともにか、落ちてくるのに相違ないと思われたのであった。−−−」(或る旅と絵葉書)(輝山参照)
 牧水らは、噴火後の道もはっきりしない焼岳のドームをよじ登り、中尾側のオオシラビソとシラビソの樹林帯を下ったことがわかります。この後、牧水は飛騨高山、古川と旅をしています。
 実は大正4年(1915)に焼岳は、水蒸気爆発(水蒸気の圧力で噴火)を起こしていました。このとき溶岩は流出しませんでした。しかし泥流(火山灰などに水が混じる)が、長野県側の梓川をせき止め大正池をつくりました。さらに昭和37年(1962)の水蒸気爆発により、焼岳に続く尾根上の中尾峠の小屋が全壊しました。小屋番の人達は火山弾の下をくぐって生還したといいます。以来焼岳への登山は禁止されていましたが、ようやく平成2年(1990)から北峰に登れるようになりました。(中部・近畿・中国の火山)
 今でも焼岳の地下では群発地震が発生することがあります。焼岳の噴火は10万年くらい前に始まり、3〜2万年くらい前には火砕流を噴出しました。今の溶岩ドームは約1万年前にできたものです。最後のマグマ流出は約2000年前です。焼岳の展望台(硫黄岳)からは、焼岳を真近に望めます。5月の焼岳は白い噴気を青空の中に出していました。(中部・近畿・中国の火山)(白山乗鞍岳御嶽山大日ヶ岳参照)
【参考】若山牧水(1929):或る旅と絵葉書、改造社(牧水全集)
高橋正樹・小林哲夫(2000):中部・近畿・中国の火山、築地書館


水蒸気が冷えてできた焼岳の噴気
【登頂日】2001年5月13日など
【標高】2303m
【場所】岐阜県吉城郡上宝村
【記録】6:50 中尾公民館 7:35 林道終点 9:30 焼岳展望台着 10:20 展望台発 11:15 林道終点 11:50 中尾公民館