盆地霧の名所・安峰山(あんぼさん)
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 安峰山は、飛騨古川盆地を見下ろす山です。飛州志には、安房山清峯寺跡として、「益田郡の久津宮の大般若経は、正和2(1313)年正月5日とあるが、これは飛騨国の清峰寺長光院の書である。」とあります。また、斐太後風土記には、安房山清峰寺跡として、「昔伽藍があって、塔頭もたくさんあった。今は大小の寺院、古井の跡が残っている。草創年代不詳、美濃国郡上郡長滝寺の末寺ではないだろうか。」との記述があります。
 現在清峰寺は、ふもとの国府町鶴巣地区にあり円空仏で有名です。その円空仏は、十一面千手観音像、聖観音像、竜頭観音像の三体で、特に千手観音像はここ以外にこれまで発見された例はありません。(郷土資料事典)(二十五山高賀山参照)
 安峰山の東、国府町桐谷には、「つり鐘落とし」という場所があり次の伝説があります。「安峰山の清峰寺には、金が8分ほど使われた釣鐘があった。寺が焼き討ちにあったとき、釣鐘を山伝いに担いで隠そうとした。しかし急な坂にかかったとき、釣鐘を下のサコ(谷)に落としてしまった。あるとき桐谷の2人の百姓が、つつじ藪のそばに、釣りがねの竜頭が頭を出している夢を見たが、鐘は発見できなかった。その後も付近から、元日に鐘の音がしたとか、僧兵の泣き声がしたとかいう話が絶えない。」(国府のむかし話、飛騨国府町の民俗)
 この山頂からは、しばしば晴天日の午前中に飛騨の盆地霧を望むことができます。山頂は霧の名所として古川町により整備され展望台もあります。林道が古川町太江から山頂まで来ています。しかし、林道は遠回りになるし、盆地霧を肌で体験するためにも、若宮神社横から登山口に入り歩いて登ることをお勧めします。
 霧の中を登るとやがて太陽の輪郭がわかるようになります。そこが霧の上限です。さらに登ると太陽がまぶしくなり、山頂からは、写真のようにみごとな雲海(霧海)を見る事ができます。霧の向こうの西方の白い山は白山連峰です。南方を見ると、霧は古川・高山盆地をおおい尽くしていて、御嶽や位山が見えました。
 盆地霧は、晴天日の明け方から午前中にかけて、冷気湖が盆地にできると発生します。冷気湖は、夜間からの放射冷却によって発生します。冷たい空気は重いので盆地底から堆積します。そして、冷気湖の上面は、気温が高くなっています。これを逆転層といいます。冷気湖内では、気温が低いので湿度が高まり、露点(水蒸気の飽和状態)以下の気温になって霧が発生するわけです。
 上記のように盆地霧の発生は一般に説明されますが、様々な謎もあります。ひとつは、通常の盆地霧以外に、層雲状(地面付近に霧がない)の霧が発生することです。安峰山の山頂から見ると、通常の霧も層雲状の霧も同じように見えます。両タイプの霧は盆地霧としての共通の特徴がある一方、出現頻度の高い季節や気温の鉛直分布に違いがあります。(新ひだ風土記)(二ツ森山漆洞山参照) 
【参考】長谷川忠崇(1745):飛州志、岐阜新聞社(復刻版)
斐太後風土記(上巻)、雄山閣(復刻版)
国府町教育委員会(1984):国府のむかし話、国府町教育委員会
大谷大学民俗研究会(1985):飛騨国府町のの民俗、国府町教育委員会
人文社刊行と旅編集部(1990):郷土資料事典(岐阜県)、人文社
下畑五夫(1997):新ひだ風土記、岐阜新聞社

山頂からの盆地霧と白山連峰
【登頂日】2002年11月23日
【標高】1058m
【場所】岐阜県吉城郡古川町
【記録】8:55 上気多登山口(若宮神社鳥居横の道から入る) 9:26 二十五菩薩跡 9:35山頂着 10:40 山頂発 11:12 登山口