湿原の尾根道・寺地山
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 寺地山は、鉱山の町神岡町山之村から飛騨山脈北之俣岳に向かう登山道の途中のピークです。神岡町からは、2本の登山道があり、ひとつは神岡新道、もうひとつは富山県境に沿う飛越新道です。飛越新道は、大規模林道が山之村から富山県有峰湖に通じた際、県境にできた道で、途中で神岡新道につながります。
 寺地山を中心とした県境の尾根は、知られざる湿原の尾根道です。寺地山に登るだけなら、長靴で登ったほうがいいくらい登山道はぬかるみになっています。そのかわり、オオシラビソの森林に囲まれた登山者の少ない静かな高層湿原がつづきます。5月以降にはミズバショウ、7月にはニッコウキスゲ、ワタスゲの花咲く別天地です。湿原植物の多くは、寒冷な氷河時代に南下した北方系植物です。写真のワタスゲは、もともとロシアのツンドラに生育する北極圏の植物です。(北之俣岳参照
 高層湿原は、泥炭の上に発達した草原です。泥炭は、低温や多雪、多湿などのため植物の枯死体の分解が進まないためできる黒い土壌です。土壌の水はけが悪いため所々に池ができます。日本での湿原(泥炭地)は尾瀬が有名ですが、飛騨の標高1,000m以上の土地にも点在します。高層湿原は、北の寒冷地ほど普通にあります。飛騨地方は、高層湿原の南限となっています。
 尾瀬の湿原は、約8,000年前の河川の後背湿地から変化したことがわかっています。寺地山のような山地斜面や尾根上の湿原の生成過程についてはあまり調査されていません。神岡新道の尾根の基盤の石は、手取層という堆積岩(泥岩など)です。泥岩は、水はけの悪い細粒の土壌になりやすいので、湿原の発達の一因になっていると思います。
【参考】坂口 豊(1989):尾瀬ヶ原の自然史、中公新書
水野瑞夫ほか(1982):わたしたちの自然、岐阜県


ワタスゲの咲く神岡新道で(後ろの山は笠ヶ岳)
【登頂日】2001年7月20日など
【標高】1996m
【場所】岐阜県吉城郡神岡町
【記録】8:00 飛越トンネル 9:25 神岡新道分岐 10:05 鏡池 10:20 山頂着 11:50 山頂発 13:25 飛越トンネル