飛騨山脈と日高山脈の氷河地形
U字谷のある飛騨山脈・形の整った日高のカール  山の雑話目次

飛騨山脈・笠ヶ岳と播隆平カール(抜戸岩付近より)

日高山脈・幌尻岳と七つ沼カール(戸蔦別岳より)
 今から約1万年前に終わった最終氷期。氷河時代の日本では、飛騨・木曽・赤石山脈の日本アルプスと、北海道の日高山脈に氷河がありました。他の標高の高い火山は、氷河時代以降に活動しているので、はっきりした氷河地形はありません。
 氷河地形の代表は、カールとU字谷です。 カールとは、氷河の侵食によるスプーンでえぐったような地形です。U字谷とは、氷河の削った断面がU字状の谷のことです。氷河と越年雪渓の大きな違いは、雪が氷化したうえに下流に向かって流動しているかどうかということです。最終氷期、氷河のできる条件である雪線(1年間の降雪量と融雪量の等しい位置)は、飛騨山脈で標高2,600m付近、日高山脈で1,600m付近でした。
 飛騨山脈の氷河地形の特徴は、山体の東斜面にカールが発達していること、槍ヶ岳などにU字谷が存在すること、カールの末端が不明瞭な場合が多いこと、などです。一方、日高山脈は、カールの原型がよく保たれているが規模が小さいこと、カールは山体の東斜面と北斜面に分布すること、U字谷はないこと、などです。
 以上のような飛騨山脈と日高山脈の違いは次の理由によります。それは、飛騨山脈は冬型の季節風(3000m上空では西寄りの風)が積雪の主原因であったのに対し、太平洋側の日高山脈は主に低気圧性の積雪が主であったということです。つまり、氷期の冬の日本海北部は凍ったので、北海道では日本海側でさえ冬型季節風による降雪はほとんどありませんでした。日高山脈は、季節風の雪雲が津軽海峡から吹きぬけて来ることがありましたが、飛騨山脈よりも積雪が少なかったのです。
 そのため、日高山脈では氷河地形の規模が小さくなりました。また、飛騨山脈の氷河は、西寄りの風に対し吹きだまりのできる東斜面に発達しました。対して日高山脈では、低気圧性の南西風の降雪頻度が高かったので東斜面と北斜面にカールができました。
 日高山脈のカールのほうが形が整っている理由はよくわからないようです。たとえば、飛騨山脈のカールの下部末端は、はっきりした境界なしに谷の斜面と連続しているのに対し、日高山脈では末端の広い平地の下が急斜面になります。

【文献】貝塚爽平・鎮西清高(1986):日本の山、岩波書店
小泉武栄(1998):山の自然学、岩波新書
大久保雅弘ほか(1988):日本の山、平凡社