薬師岳から見る平野と盆地の気候
富山平野は快晴、飛騨の盆地は霧の下  山の雑話目次

薬師岳から見る富山平野と日本海

薬師岳から見る盆地霧の下の高山盆地・古川盆地
 飛騨山脈、薬師岳は富山県の山です。ただし富山平野と日本海、そして白山と飛騨を同時に眺めることができます。2001年9月23日に薬師岳に登ると、移動性高気圧に覆われ快晴に恵まれました。ところが富山平野とその向こうの日本海は見渡すことができましたが、飛騨の内陸盆地(高山盆地、古川盆地)は、白い雲(霧)の下でした。この雲は盆地霧と呼ばれるもので、岐阜県では他に恵那盆地などに出現します。夏季と秋季に多く現れます。
 盆地霧は、晴れた夜、放射冷却で冷えた空気が盆地に堆積してできます。堆積した冷気は露点(水蒸気が水滴になる温度)に達して霧をつくります。また霧の上面は、霧内部より気温が高くなります。このような上空のほうが気温が高くなる層を逆転層といいます。盆地霧の成因は、夏季に飛騨山脈のふもとにできる逆転層下の雲海とは異なります。証拠に写真を見ると薬師岳のふもとには雲海はなく、離れた凹地に雲が張りついています。
 霧は、盆地に堆積した冷気が十分湿気を帯びているか、冷気に接する相対的暖気が湿っているときできます。また、風が弱いと盆地に冷気が堆積します。盆地霧が発生しやすい季節は、晴天日に比較的風の弱い夏季から秋季です。高山盆地や古川盆地の中で観察すると、夏季には霧は地面まで達しないで山の中腹に霧のかかる曇り空になります。そして、朝早いうち、午前8時前には晴れ渡ってしまします。そのため地元の人も霧の出現を意識しません。秋季の盆地霧は、地面に達することが多くなりますが、山の中腹に雲のかかった曇りの状態のことも多くあります。そして、午前10時〜12時までには晴れ渡ります。秋の霧は通勤時間に出ていることもあり、よく話題になります。夏の盆地霧が早く晴れるのは、日の出の時間が早いことが一因です。
 山の中腹以上の盆地霧を高い霧、地面に達する霧を低い霧と呼び区別することがあります。高い霧と低い霧の違いは、地温や季節による大気の鉛直構造の違いによると予想されますが、まだよく確かめられていません。

【文献】下畑五夫(1992)飛騨の朝霧について、天気39巻(日本気象学会)