カタクリの尾根道・能郷白山
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 能郷白山は奥美濃の最高峰です。ふもとの本郷では、雨乞いのため石を持って山頂の権現様の宮に置いてきたといいます(岐阜県の伝説)。
 江戸期の新撰美濃志・能郷村の項に次の記述があります。「能郷山は北の方越前の境にあり。熊野白山権現社は御本社能郷山の峯にあり。---養老元(717)年の鎮座にて、祭神伊弉冉尊(いざなみのみこと)は越の泰澄法師の祀る所なり。---例祭は三月十二日、御旅の社に祭の能ありて御輿三基出づ。謡曲の能はむかしよりの伝来ありて、農人其わざをよくす、村の名もそれによれりとぞ。---かかる奥山の里にいにしへぶりの伎芸ののこりたるはいとめでたき事なりかし。」(白山大日ヶ岳参照)
 この山は日本海側と太平洋側の境界に立つ山であるため、豪雪地帯に位置します。そのため、標高が1600mあまりにもかかわらず6月頃まで残雪が残ります。まだ、残雪が残る5月下旬、ウグイスやカッコウの鳴き声を聞きながら温見峠から山頂を目指すと、尾根に沿って紫色のカタクリの群落に出会いました。木は芽吹いたばかりでした。
 カタクリは春植物の仲間です。春植物は、消雪とともにいち早く成長し花を咲かせ結実して、木の葉が広がるころには枯れてしまう植物のことです。春植物は、林床がまだ明るいうちに太陽光を独占し、まわりの落葉樹の葉が繁るころには、翌年の準備を終了してしまうわけです。植物の、季節的な「すみわけ」といえます。カタクリは、日当たりの良い草地に群生するので、焼畑の多かった美濃や飛騨の山地には群生地が多かったと思われます。最近は、草を刈らなくなったり雑木が増えたけっか、カタクリの群生地は減少しているといわれます。(日本の生物、飛騨おもしろ博物館)
 カタクリは、湿った場所を好むので雪が溶けた後、山の北斜面に群落をつくるといいます。温見峠も、能郷白山の北向き斜面の登山道です。ちなみに、デンプンのことをカタクリ粉ということがあります。昔は実際にカタクリの根からデンプンをとったからです。(里山図鑑)
【参考】岡田文園(1860頃):新撰美濃志、一信社(新装版)
おくやまひさし(2001):里山図鑑、ポプラ社
掘越増興・青木淳一(1985):日本の生物、岩波書店
飛騨自然史学会(1993):飛騨おもしろ博物館、中日新聞本社
吉岡 勲(1955):岐阜県の伝説、大衆書房


温見峠からの登山道に咲くカタクリの花
【登頂日】1996年5月25日
【標高】1617m
【場所】岐阜県本巣郡根尾村
【記録】 10:25 温見(ぬくみ)峠 12:10 山頂着 13:35 山頂発 14:40 温見峠