昭和20年8月15日の正午ポツダム宣言を受諾する旨の玉音放送が流れ、敗戦が伝えられました。
聯合国軍が日本に駐軍し、戦後の処理として12月15日、政府に神道指令と呼ばれる指示を伝えます。


神道指令とは正式には「国家神道、神社神道に対する政府の保証、支援、保全、監督並に弘布の廃止に関する件」という覚書で
「神道ノ教理並ニ信仰ヲ歪曲シテ日本国民ヲ欺キ、侵略戦争ヘ誘導スルタメニ意図サレタ軍国主義的並ニ過激ナル国家主義的宣伝ニ利用スルガ如キコトノ再ビ起キルコトヲ防止スルタメニ」
という趣旨に基づき、一般の神社をはじめ特に靖国神社・護国神社はそれに該当する疑いがあるとして、総司令部はきびしく監視しました。
なお、この指令は当然のことながら昭和27年のサンフランシスコ平和条約発行により、効力を失っていることも添えておきます。


神社本庁は昭和21年8月に「今後の神社の在り方」と題し、神職の講習会を開催します。
講師の総司令部顧問役、東京大学宗教学教授岸本英夫氏は、
  護国神社の軍国主義的傾向を少しでも除去するために
  1、護国神社の名称は戦時中に附されたものであるからなるべく早く適当の社名に改めること
  2、祭神についても、戦死者だけでなく郷土の公共福祉のために倒れた方々なども広く増祀すること
  3、護国神社においても日曜学校などを設け社会の福祉につとめること
  以上のようなことを総司令部で求めているのではないか。その点に注意すべきだ。
と暗示されたため、全国の護国神社においても協議の結果、自発的に社名と祭神名が逐次変更されていきました。



飛騨護国神社主管者殿       内務部長
21教第898号        昭和21年7月27日

護国神社の調査について

緊急の必要があるから貴護国神社の左記事項を御調査の上来る8月5日迄に県庁教務課へ御報告願ます
尚本調査は聯合軍の命令に基く調査であるから調査事項並びに期限は正格に厳守願ます

1、神社名
2、所在地(番地迄詳細のこと)
3、創立年月日
4、創立当時の主たる後援者並びに団体名
5、現在の主たる後援者並びに団体名
6、境内地面積(官民有の別を付記すること)
7、神社財産
   イ、境内地を除く土地(地種目、面積、評価々格)
   ロ、建物及び施設(建坪、価格)
   ハ、預貯金及有価証券
8、過去5ヵ年間各年度に於いて神社維持の為めに支出された金額
   イ、国庫及び県より受けたる金額(国庫、県の別及び祭祀料を含む)
   ロ、民間団体及び個人等の寄付金
9、戦災の程度及び其の修理状況
10、職員数
   イ、神職
   ロ、其の他の職員
11、其の他参考となるべき事項




  

護國神社調査の件報告
                                      岐阜縣高山市堀端町88番地鎮座
                                                  飛騨護國神社
昭和21年7月27日附教898号を以て御照会になりました調査事項別記之通りであります右御報告致します。
           昭和21年7月31日
                                              右神社主管者
                                                     森本彌一

岐阜県内務部長殿

1、神社名                   飛騨護國神社
2、所在地                   岐阜縣高山市堀端町88番地
3、創立年月日                明治42年6月16日
4、創立当時ノ主タル後援者並ニ団体名 永田吉右衛門外飛騨國内有志247名
5、現在ノ主タル後援者並ニ団体名    祭神遺族3200名及國内崇敬者
6、境内地面積                民有地776坪7合9勺
7、神社財産
   イ、境内地ヲ除ク土地         畑    92坪  評価額  220円
                         原野   18坪  評価額  20円
   ロ、建物及施設             建坪 165坪5合
                                評価額  金49650円
   ハ、預貯金及有価証券        預金            金1920円
                         有価証券 額面金額     780円
8、過去5ヵ年間各年度ニ於テ神社維持ノ為メニ支出サレタ金額
               各年度支出額     神饌幣帛料  イ、国庫ヨリ受タル金額   イ、縣ヨリ受タル金額  ロ、民間団体及個人等寄付金
     昭和16年度   9570円18銭        64円           100円         130円               242円
     昭和17年度  10007円20銭        56円           100円         130円               116円
     昭和18年度  11415円23銭       100円           100円         130円                10円
     昭和19年度   9975円30銭       100円           100円         130円                40円
     昭和20年度  10436円24銭       105円           100円           0円                 0円
       合計     51004円15銭       425円           500円         520円               408円
9、戦災ノ程度及ビ其ノ修理状況     戦災ヲ受ケズ
10、職員数          イ、神職  弐名
                  ロ、其の他ノ職員 ナシ
11、其の他参考トナル可キ事項
当神社ノ境内並ニ主タル建物ハ明治12年神宮教飛騨中教院トシテ建設セラレタルモノニシテ中途神宮奉齋会ニ移管セラレ惟神道ノ宣布冠婚葬祭等ヲ執行シ来リタル飛騨大神宮(旧称忠孝苑大神宮)及祖霊殿ト同一境内同棟下ニ奉齋セルモノナリ
今回時勢ニ鑑ミ右飛騨大神宮と当飛騨護國神社トヲ合併して神社名を飛騨神社ト改称手続申請中ニシテ此後一般民間神事ヲモ執行社会教化事業ニ尽サントス

附記
8、過去5ヵ年間云々中(ロ)民間団体及個人等ノ寄付金トアルハ不明ナル点アリ依ツテ各年度社入金別記内訳書相添候也
各年度社入金内訳
           賽銭其他収入    境内外収入      雑収入     崇敬者負担金   寄付金   市費共進金
    16年度  4332円37銭    78円50銭    42円79銭    4201円96銭   242円      14円
    17年度  5351円10銭    60円50銭    75円14銭    4469円92銭   116円      14円
    18年度  6736円35銭    67円50銭   260円27銭    4463円05銭    10円      14円
    19年度  7715円06銭   185円        16円48銭    3622円45銭    40円      27円
    20年度  8010円25銭   145円33銭    67円24銭    3156円         0円      10円
       備考 崇敬者負担金トアルハ実質上崇敬者ノ寄付金ニシテ強要的ノモノニアラズ


(多くの方に誤解されがちですが、戦時中も現在同様、収入のほとんどは崇敬者からの寄付に頼っていたことが分かります)



同年8月6日にも総司令部は、全国の護国神社の実情報告を提出するよう文部次官を通じて神社本庁に指示します。
神社本庁は同日付けで各県の神社庁長宛てに県下の護国神社の実情報告を求めました。

21岐神第151号
昭和21年9月2日 岐阜県神社庁長
飛騨護国神社主管者殿
護国神社調査ニ関スル件
標記ノ件ニ関シ神社本庁事務総長ヨリ申越候条曩(さき)ニ地方長官ヨリ照会ニ依リ回答セラレタル調査書二通至急当庁宛送付相■度此段■照会候也



神社庁にも同じ報告書を提出しますが、その後神社庁長宛に次のような文章を発送しています。


謹啓
飛騨大神宮ハ本年5月31日附ヲ以テ創立許可同日神社規則承認相成候処飛騨護國神社ト合併ノ議起リ7月21日附ヲ以テ両神社合併神社名変更ノ願提出中ニ有之候(中略)尚飛騨護國神社ト合併ノ件ハ目下ノ状勢ニ依リ護國神社ノ存立不可能ト相成候テハ合併スル方宜敷ヤ合併セザル方宜敷ヤ甚ダ憂慮致居候ニ付貴庁ニ於テ状勢考慮ノ上適当ナル対策ヲ講セラレ御指導被下成度此段及御願候
     昭和21年10月10日                      森本彌一
岐阜縣神社庁長殿






昭和21年11月16日附で神社本庁に提出された飛騨神社沿革由緒(抜粋)


1、神社名   飛騨神社
(旧称 飛騨招魂社及ビ飛騨護國神社)
1、所在地   岐阜県高山市堀端町88番地
(地目改正前 岐阜県大野郡高山町城山1番地)
1、祭神    主神 天照皇大神
         相殿 豊受大神 手力男大神
         脇殿 西南役以来戦歿軍人軍属ノ霊 公務殉職者其他飛騨文化功労者ノ霊
         別殿 祖霊殿 神道崇敬一般者ノ霊

1、飛騨神社ノ発祥 (省略)
1、飛騨招魂社   (省略)
1、飛騨護國神社  (省略)
1、飛騨神社     昭和21年7月21日附右忠孝苑大神宮(当時飛騨大神宮)ト飛騨護國神社ト合併シ社名変更ノ儀出願同年10月30日許可セラレ神社名ヲ飛騨神社ト改称ス




しかし、文部大臣官房宗務課による護国神社調べの回答では以下のような記述になっており、以後森本宮司は退任。
下記の由緒として後任の垣添宮司へ引き継がれていきました。



拝復
昭和22年7月12日附を以て御照会になりました件別記の通り御報告申し上げます。
   昭和22年7月27日                  飛騨神社宮司 森本榮樹
文部大臣官房福田宗務課長殿

                         記
1、神社名  飛騨神社
2、鎮座地  岐阜縣高山市堀端町88番地
3、祭神   元田小三郎命外4403柱
4、官祭私祭の別   私祭
5、指定指定外の別  指定外
6、関係墳墓      ナシ
7、備考      昭和21年10月30日飛騨護国神社を飛騨神社と改称し明治11年以来祭祀し来れる祖霊殿奉斎の諸霊を合祀し今後も公務殉職者文化功労者等を追加合祀し冠婚葬祭社会教化等組織を旧態に復す





昭和24年に提出された神社名には飛騨神社と飛騨大神宮2社の名が記されており、
実際に護国神社と大神宮が合併したか否かについてははっきりしません。

戦後の混乱の中GHQを恐れ、いかに護国神社を守るかという試行錯誤の中
結果的にうやむやにすることに成功したと言えるでしょう。